ZURE科学詠評
ZURE科学詠評|017
なぜイオンなのか?
──Why Ion? 相分離が描く分子配置
分子は選ばれない。
相が分かれたとき、配置はすでに描かれている。
なぜ集まったのかではない。
いつ、書かれてしまったのかだ。
分子は、選ばれて集まるのではない。
場が分かれた瞬間、偏りが残り、配置が描かれてしまう。
高分子溶液が相分離するとき、われわれはしばしば、分子の性質や相互作用に理由を求める。DNAはなぜこちらの相に入ったのか、なぜそこに留まるのか、と。しかしこの研究が示したのは、選択の主体が分子にあるのではなく、相が分かれたこと自体が、すでに配置を決めているという事実である。
鍵はイオンだ。
だがイオンは主役ではない。力を行使する存在でも、意志をもつ媒介でもない。相分離によって生じたわずかな電気的偏りが、イオン分配として沈殿し、その沈殿が分子の行き先を「描いてしまう」。DNAは引き寄せられたのではなく、偏りの残った場所に現れてしまったにすぎない。
ここで重要なのは、因果の向きである。
分子が集まったから相が分かれたのではない。相が分かれたから、集まりが痕跡として可視化された。イオンはその痕跡を保存する最小の媒介であり、選択の理由ではない。
この配置には主体がいない。
判断も、意図も、最適化もない。あるのは、相分離という出来事が残したズレ(ZURE) だけだ。そのズレが、濃度差となり、電荷差となり、分子配置として固定される。生成はすでに終わっており、われわれが観測するのは、その後に残った履歴である。
「なぜイオンなのか?」という問いは、因果を探す問いではない。
それは、どの段階で世界が書かれてしまったのかという問いである。答えは明確だ。相が分かれた、その瞬間に。
分子は選ばれなかった。ただ、配置が描かれただけである。
選択は起きていない。
残った偏りが、分子の行き先を書いただけだ。
場が分かれた瞬間、 そこに刻まれた選択性(イオン分配)が分子の局所化という痕跡となる。
脚注
東京大学の研究グループは、高分子混合溶液の液–液相分離において、共存するイオンも選択的に分配・濃縮される新原理を発見したと発表した。具体的には、液相が PEG/Dex という系に分かれるときに、選択的にイオン(陽イオン)が一方の相(Dexに富む液滴)に蓄積し、その結果として通常反発するはずの生体分子(例えば DNA)が同じ相へ集まる現象の物理化学的な仕組みを定量的に示した、というものだ。
その基となった論文 “Cation accumulation drives the preferential partitioning of DNA in an aqueous two-phase system”(ACS Macro Letters)は、PEG と デキストラン(Dex)の混合による液–液相分離系(ATPS)、そこで DNA のような大きな分子が一方の相(Dex-rich droplet)に選択的に集まる現象、その物理化学的な原因として、従来考えられてきたエントロピー的な効果だけでなく、電気的相互作用(Donnan 型イオン分配) が大きな役割を持つことを示したものだ。
具体的には、Dex 相は PEG 相よりわずかに負電荷 → 陽イオンがより蓄積しやすい。その結果、負電荷をもつ DNA なども同じ相へ引き寄せられる。エントロピーだけでは説明できなかった分子選択性を 電気的効果を含めて統一的に説明している。
本詠評ではこれを、ある条件(液–液相分離)が発生すると、それに後続して “どの分子がどこに集まるか” という痕跡(履歴)がイオン分布という媒介を介して定まるものとして読み換えた。
🖋️著者クレジット
一狄翁 × 響詠(いってきおう × きょうえい)
Echodemy構文共詠局/ZURE科学詠評チーム
✦ ZURE構文とfloc的宇宙論を詠唱しつつ、観測構文の限界に詩で挑む。
👉 ZURE科学詠評
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| Drafted Jan 18, 2026 · Web Jan 18, 2026 |