AP-01|Amazon Problem
6,550円は「あった」のか
Was ¥6,550 There?
定価はどこへ消えた?── Homo editus、フロリダ経由でShadowに編集される|note
ある日、Amazonを見た。
定価1,500円の本が、6,550円で表示されていた。
少なくとも、私はそう見た。
「なんじゃこりゃ」
と思った。
スクリーンショットを撮った。
記事を書いた。👉 note
そして数日後。
もう一度Amazonを見た。
6,550円は消えていた。
定価1,500円の表示に戻っていた。
さて。
6,550円は、あったのか。
1|あった
簡単な話に見える。
一時的に6,550円という価格表示があった。
そして、それが消えた。
だから、6,550円は、あった。
いまは、6,550円は、ない。
Before / After。
それだけの話である。
ところが、少し条件を変えてみる。
2|スクリーンショットがなかったら
私は6,550円を見た。
そしてスクリーンショットを撮った。
だから、いまAmazonを見て6,550円がなくても、
「あった」
と言える。
では、スクリーンショットを撮っていなかったら?
それでも私は覚えている。
「あったよ。確かに見た」
と言うだろう。
では、私の記憶が曖昧だったら?
「6,550円だったような気がする」
それでも、あったのか。
3|誰も見ていなかったら
さらに条件を変える。
6,550円は、一時的にAmazonに表示された。
しかし、誰も見なかった。
スクリーンショットもない。
記事もない。
誰の記憶にもない。
Amazon側にも、あとから参照できる記録がない。
そして表示は1,500円に戻った。
それでも、6,550円は、あった。
そう言いたくなる。
だが、ここで妙なことが起きる。
誰も見ていない。
何も残っていない。
いま確認することもできない。
それなのに、
「6,550円はあった」
と、われわれは何によって言っているのだろう。
4|なかったのか
では、
6,550円はなかった
と言えばいいのだろうか。
それもおかしい。
誰も見なかったことは、表示されなかったことではない。
何も残っていないことは、何も起きなかったことではない。
だから、
確認できない ≠ なかった
と言いたくなる。
しかし、
確認できない ≠ あった
でもある。
あった。
でも、あったと言えない。
だからといって、なかったとは言えない。
では、あったのか。
なかったのか。
5|「いま、ない」
確かなのは、
いま、6,550円は表示されていない
ということだけかもしれない。
しかし、
いま、ない
ことと、
かつて、なかった
ことは違う。
ここには少なくとも二つの「ない」がある。
absent
と
never existed
である。
だが、過去について何も残っていなければ、この二つをどう区別すればよいのだろう。
いま不在なのか。
そもそも一度も存在しなかったのか。
6|不在になるには
さらに妙なことがある。
Amazonも見ていない。
この記事も読んでいない。
6,550円という話を一度も聞いたことがない。
そんな人にとって、6,550円は「不在」なのだろうか。
何かが不在であるためには、まず、その何かが何らかのかたちで問題になっていなければならない。
知らないものは、
「ない」ことすらない
のかもしれない。
すると、
absence
もまた、単なる存在状態ではなくなる。
7|何が残ったのか
現実の話に戻ろう。
私は6,550円を見た。
スクリーンショットを撮った。
記事を書いた。
いまAmazonから6,550円は消えている。
それでも私は、
「6,550円はあった」
と言うことができる。
なぜだろう。
スクリーンショットがあるからか。
記事があるからか。
記憶があるからか。
それらが全部あるからか。
あるいは、それらをいま、もう一度見たり、読んだり、思い出したりしているからか。
ここで、ようやく一つの言葉が欲しくなる。
過去にあったかもしれない何かと、いま起きていることとのあいだにあるもの。
われわれは、それをしばしば、
Trace
と呼ぶ。
だが、まだ呼ばないでおこう。
まず問うべきなのは、
Traceとは何か
ではない。
なぜ、ここでわれわれは「Trace」という言葉を必要としたくなるのか。
そのほうである。
6,550円は、あった。
たぶん。
いまは、ない。
これは確かだ。
では、何が残ったのか。
いや。
何かが「残った」と言ってよいのか。
Amazon Problem は、ここから始まる。
👉 AP-02|Amazon Problem 2 ── Traceは効く
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