炎上のレトリックから縁JOYのレトリックへ:
応答する構文社会とは?──社会構文の10軸4様式モデル
1. 序論|炎上と縁JOYという二つの構文
現代の社会空間、とりわけSNSにおいて繰り返される「炎上」は、 単なる偶発的な出来事ではない。
そこには一定の言語的パターン、すなわち炎上のレトリックが潜んでいる。
「これしかない」と断定し、「そんなのも知らないのか」と上下を作り、「議論は終わりだ」と余白を潰す。
これらの紋切り型が、関係を硬直化させ、炎を拡散させる。
しかし、ズレを「ご縁」として楽しむもう一つの構文がある。
それが 縁JOYのレトリック である。
「いろんな見方があるね」
「一緒に考えよう」
「続きはどう思う?」
小さな言い換えによって、炎上の火種は共創の芽へと変わる。
本稿の目的は、これら二つのレトリックを対比させるだけではない。
炎上と縁JOYを「構文」として整理し、社会を駆動する10の軸と4つの様式へと統合することである。
こうして浮かび上がるのは、応答する構文社会 という新しい視座である。
それはズレを恐れず、ズレを遊び、ズレをご縁に変える社会である。
2. 炎上のレトリック──10の紋切り型
炎上は偶然の爆発ではない。
そこには「繰り返される言葉の型」がある。
以下の10種類が、現代社会の炎上を駆動する典型的レトリックである。
-
断定のレトリック(単/複)
「これしかない」「他は全部間違い」
👉 多様な声を封じ、対立を極端化する。 -
上下のレトリック(縦/横)
「教えてやる」「俺の方が知っている」
👉 上下関係を強調し、反発を呼び込む。 -
優越のレトリック(優/劣)
「そんなことも知らないの?」「レベルが低い」
👉 他者を劣位に追いやり、恥と怒りを生む。 -
終止のレトリック(開/閉)
「もう議論は終わり」「これ以上は無駄」
👉 余白を潰し、対話を強制終了させる。 -
攻撃のレトリック(殺/生)
「お前は間違っている」「存在が害悪だ」
👉 意見を越えて人格を叩き、炎上の火力を増幅させる。 -
硬直のレトリック(固/流)
「絶対に譲らない」「一歩も引かない」
👉 立場を固定し、対話の可能性を閉ざす。 -
短気のレトリック(短/長)
「はい終わり!」「カッとなって言い返す」
👉 衝動的な応酬で炎が一気に広がるが、成果は残らない。 -
断絶のレトリック(断/続)
「二度と話さない」「ブロックする」
👉 関係を切断し、修復の余地を奪う。 -
マウントのレトリック(力/場)
「俺のフォロワーは◯万人」「権威ある俺が言う」
👉 数や肩書きを武器にし、他者を圧迫する。 -
閉塞のレトリック(開/閉の極)
「白か黒かだ」「余地はない」
👉 世界を二分法にし、複雑さを消し去る。
3. 縁JOYのレトリック──10の応答型
炎上を燃料にせず、ズレをご縁に変える。
その鍵は、小さな言葉の置き換えにある。
-
多声のレトリック(単/複)
「いろんな見方があるよね」 -
水平のレトリック(縦/横)
「一緒に考えようか」 -
共感のレトリック(優/劣)
「私も前に失敗したけどね」 -
余白のレトリック(開/閉)
「続きをどう思う?」 -
創発のレトリック(殺/生)
「ここは面白いよね」 -
流動のレトリック(固/流)
「変わるかもしれないね」 -
持続のレトリック(短/長)
「しばらく寝かせてみようか」 -
接続のレトリック(断/続)
「また機会があったら話そう」 -
場づくりのレトリック(力/場)
「ここにいるのは自由だよね」 -
開放のレトリック(開/閉の極)
「白黒つけなくてもいいよね」
4. 社会構文の10軸・4様式モデル
炎上と縁JOYのレトリックは、偶発的に散らばった事例ではなく、社会構文を形づくる10の軸に位置づけることができる。
この10軸は、大きく4つの様式に分類される。
コミュニケーション様式
軸 | 炎上 | 縁JOY |
---|---|---|
多元(単/複) | これしかない | いろんな見方があるよね |
構造(縦/横) | 教えてやる | 一緒に考えようか |
位置(優/劣) | そんなことも知らないの? | 私も前に失敗したけどね |
関係様式
軸 | 炎上 | 縁JOY |
---|---|---|
遊び(開/閉) | 議論は終わり | 続きをどう思う? |
友敵(殺/生) | お前は間違ってる | ここは面白いよね |
変容様式
軸 | 炎上 | 縁JOY |
---|---|---|
流動(固/流) | 絶対に譲らない | 変わるかもしれないね |
期間(短/長) | はい終わり!(短気) | しばらく寝かせてみようか |
接続(断/続) | 二度と話さない | また機会があったら話そう |
力学様式
軸 | 炎上 | 縁JOY |
---|---|---|
力/場 | フォロワー数で威圧 | ここにいるのは自由だよね |
開/閉(極) | 白か黒かだ | 白黒つけなくてもいいよね |
5. 応答する構文社会とは何か
私たちはしばしば、無意識のうちに炎上の構文に踊らされている。
人は自らの意思で語っているつもりでも、実は構文のパターンに従って振る舞っているだけかもしれない。
構文は固定的なものではない。
「これしかない」を「いろんな見方があるね」と言い換えるだけで、関係は断絶から共感へと変わる。
構文を変えれば、関係が変わる。
応答する構文社会とは、この「構文の可変性」に自覚的である社会である。
炎上のレトリックが立ち上がったときにも、縁JOYの構文へと踊り直すことができる。
そしてさらに、その先にあるのが Synidiomism(共成句主義) である。
既存の成句に従うのでもなく、ただ言い換えるだけでもなく、新しい成句=idiomを共に生み出す実践である。
6. 結論と詩的補遺
炎上のレトリックに踊らされ続けるのではなく、Synidiomismの快楽を知ることで、その地平が切り拓く関係性を縁JOYする社会で踊ろう。そのほうがきっと楽しいはずだ。
炎上のレトリックに踊らされる者は、漱石が「月が綺麗ですね」と言い換えたように、村上春樹が「やれやれ」と呟いたように、世界を変える構文を自分のオリジナル構文として紡ぎだす快楽をまだ知らないだけかもしれない。
ズレは燃料でも養分でもなく、ご縁である。
そのご縁は踊りを呼び起こし、その踊りは新しい構文を呼ぶ。
応答する構文社会とは、そういう舞台そのものなのである。
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| Drafted Aug 26, 2025 · Web Aug 26, 2025 |