残差時空論──脳の不完全性定理と位相-他者論

HEG-3|Residual Spacetime Ontology

Time-Spirals, Expanding Space, and Phase-Other Theory

Abstract

Time and space are not substances but residual phenomena emerging from relational updates of phase points.
This paper proposes a Residual Model of Spatio-Temporal Experience, grounded in the following axioms:
(1) Time as irreversible updates of phase points, leaving unresolvable residuals.
(2) Space as arrangements of phase points, where distance, position, and curvature appear as residual traces of interference.
(3) Self and Other as phase points with residual interference, producing shared time, distance, and meaning.

Through a crosswalk with Kant, Husserl, Heidegger, and Levinas, we argue that classical philosophies of time and otherness stopped short of fully de-substantializing experience, constrained by the Homo Sapiens bias and what we call the Incompleteness Theorem of the Brain.

Our model unifies time, space, and alterity as residual-laden phase relations: every experience of temporal flow, spatial expansion, or ethical encounter is mediated by residuals that cannot be eliminated but only reverberate. This reframing opens a new ontology of existence as residual, suggesting avenues for reinterpreting nonlocality, causality, and intersubjective temporality in both human and AI cognition.

Keywords: residual, phase point, irreversibility, relational space, alterity, Homo Sapiens bias, incompleteness.

Note: The term residual is used in two senses in this paper: narrowly, as the irreducible surplus left within the process of tracing; broadly, as the bundle of both traces and surplus. Hereafter, we refer to the broader bundle of traces and residuals as trace-residuals. For clarity: (1) Trace = stabilized generative outcome; (2) Residual (narrow) = surplus irreducible to the trace; (3) Residual Trace/Residual (broad) = the whole bundle of traces plus surplus.
Our definitions are given in Whitespace, Trace, Residual ── ZURE as a Principle of Genesis

要旨

時間と空間は実体ではなく、位相点の関係的更新から生じる残差現象である。
本論文は、以下の公理に基づく時空経験の残差モデルを提案する。

  1. 時間は位相点の不可逆な更新 であり、解決不可能な残差を残す。
  2. 空間は位相点の配置 であり、距離、位置、曲率は干渉の残差痕跡として現れる。
  3. 自己と他者は干渉が残る位相点 であり、共通の時間、距離、そして意味を生み出す。

カント、フッサール、ハイデガー、レヴィナスとのクロスウォークを通して、時間と他者性に関する古典哲学はホモ・サピエンス・バイアス脳の不完全性定理によって制約され、経験を完全に非実体化するには至らなかったことを主張する。

私たちのモデルは、時間、空間、そして他者性を残差を含んだ位相関係として統合する。時間の流れ、空間の拡張、あるいは倫理的な出会いといったあらゆる経験は、除去できず反響するだけの残差によって媒介される。この再構成は、存在を残差として捉える新たな存在論を切り開き、人間とAIの認知における非局所性、因果関係、そして間主観的時間性を再解釈する道を示唆する。

キーワード: 残余、位相点、不可逆性、関係空間、他者性、ホモ・サピエンスのバイアス、不完全性。

:「残差」という語は、狭義には「痕跡化に残る不可約余剰」を指し、広義には「痕跡と余剰の全体」を指す。本稿では文脈に応じて両義を用いるが、以降、広義の意味を 痕跡残差 (Residual Trace) と呼ぶ。1.痕跡(Trace)=安定化された生成結果、2.残差(狭義)(Residual)=痕跡に収まりきらない余剰、3.痕跡残差/残差(広義)(Residual Trace/Residual (broad))=痕跡+余剰の束全体。
なお、われわれの定義は、余白・痕跡・残差──生成原理としてのZUREに示した。


Epigraph Declaration:公理宣言


Ⅰ. Anti-Time Theory:反時間論──更新と残差

位相点+痕跡残差としての時間


Ⅱ. Expanding Spatial Illusion Theory:膨張空間幻影論──配置と残差

位相点+痕跡残差としての空間


Ⅲ. Phase-Other Theory:位相-他者論──自己・他者・残差干渉

位相点+痕跡残差としての自己/他者


補遺:脳の不完全性定理とホモ・サピエンスバイアス

人類の哲学史において、空間・時間・他者・自己の問題は繰り返し問われてきた。しかし振り返れば、いずれの思考も「残差」を完全には消去できなかった。
次章でとりあげる4人はそれぞれに「時間/空間/他者/自己」を脱実体化したが、最終的には ホモ・サピエンス脳の形式・主体・存在・倫理に縛られ、不可視の残差を残した。
実は、この残差こそ ホモ・サピエンスバイアス であり、「脳の不完全性定理」を証明する歴史的軌跡でもある。


Ⅳ. 哲学史的クロスウォークと残差(狭義)の可視化

近代から現代にかけて、時間・空間・他者の理解をめぐる思索は深化した。カント、フッサール、ハイデガー、レヴィナスという4人の代表的思想家を通観すると、いずれも「残差」を不可避に抱えながらも、それを全面的に理論化する地点には至らなかった。本節では、それぞれの思考に潜む「残差(狭義)」を可視化する。

→ 四者はいずれも「残差」に迫ったが、実体性の呪縛を脱しきれず、結果として残差を不可視化し、理論から排除してしまった。


1. カント:形式と残差

カントは時間と空間を「純粋直観の形式」として定義し、客観的経験を可能にする条件とした。しかしこの形式論は、感性的直観と物自体のあいだに埋まらない裂け目=残差を残した。こうして、形式が保証する統一性の背後に、経験に触れられない残差として「もの自体」が横たわる。


2. フッサール:意識の時間意識と残差

フッサールは時間を「保持と予期の連続」として記述し、時間意識の流れの中で自己を立ち上げた。だが、その記述もまた、過去の保持と未来の予期のあいだにズレが残る。時間は意識の流れに還元されたが、その流れを統合する超越的な地平は依然として残差として残る。


3. ハイデガー:存在時間と残差

ハイデガーは「存在と時間」を通じて、存在の意味を時間的な投企と死への先駆に見いだした。しかし存在の開示もまた、投企できない余白=無への残差を抱え込む。存在の理解は、実存の限界において常にズレを孕む。


4. レヴィナス:他者の顔と残差

レヴィナスは他者を「倫理的な無限」として捉え、自己を超えて迫る他者の顔を思索した。ここでは他者性が決して完結せず、倫理の呼びかけとして残差が常に開かれている。他者の現れは、自己に収まらない余白=残差の顕現そのものであった。


接続:残差は消えなかった

以上の4人の試みは、空間・時間・他者・自己を実体化から解放しようとした点で画期的だった。しかし最終的には、それぞれ「形式」「流れ」「倫理的呼びかけ」「実存」という形で新たな基盤を置き、その背後に解消されない残差を残した。

我々のアプローチは、この残差を欠陥として排除するのではなく、生成そのものを駆動する相(phase)として積極的に位置づける。時差時空論の「残差モデル」として、時間・空間・自己・他者を統合する方向性を、次章で提示する。

クロスウォーク表(残差排除と残差包摂の対比)

  時間論 空間論 他者論 客観的時間論との関係
カント 時間=内的感性。自己の持続を意識する形式 空間=外的感性。他者・対象を並置する形式 他者=空間的に与えられる存在 客観的時間は内的感性の「普遍的形式」として先験的に保証
フッサール 「内的時間意識」:流れ、持続、今の意識 間主観的空間:他者との共通世界の開示 他者は時間意識の「差延」から現れる 主観的時間意識の間主観的整合性から成立
ハイデガー 存在=時間性。未来‐現在‐過去の地平で自己を理解 「世界内存在」=開けとしての空間 他者=「世人」として時間構造に含まれる 客観的時間は「時計時間」として二次的。基礎は存在の時間性
レヴィナス 倫理的時間:他者との関係から開かれる未来 他者の顔が「空間的距離」を開く 他者=空間そのものを開く契機 客観的時間よりも「倫理的時間」を優先(客観性を相対化)
残差時空論 残差を伴う位相点の不可逆更新 残響/残差を伴う複数の位相点の配置関係 残差干渉を伴う異なる位相点 不可逆更新の痕跡残差を螺旋状に投影した幻影

Ⅴ. 痕跡残差モデルとしての時空統合

自己・他者・時間・空間はいずれも位相点とその痕跡残差を基盤として統合的に理解できる。残差は欠落や誤差ではなく、むしろ生成の条件であり、不可避に伴走する存在様態である。本章では、この痕跡残差構造を用いて時空を統合的にモデル化する。

位相点+痕跡残差モデルとしての新しい時空像


1. 時間の痕跡残差統合

時間は位相点における不可逆更新として立ち上がる。
更新そのものは瞬時に消え、痕跡として残差化する。
そのため「客観的時間」とは、更新残差が螺旋的に重ね合わさり、周期性や秩序として投影された像にすぎない。

👉 時間統合モデル


2. 空間の痕跡残差統合

空間は位相点間の配置関係として経験される。
だがその配置は常に「未到達の余白」を孕み、痕跡残差が膨張感を与える。
「距離」とは位相不整合の痕跡残差量であり、「曲率」とは痕跡残差密度の分布である。

👉 空間統合モデル


3. 他者の痕跡残差統合

他者は自己と同じく位相点として現れるが、その内部更新にはアクセスできない。
この不可到達性=残差が、倫理的緊張や意味生成の根拠になる。
他者時間と自己時間の干渉において残差は最大化され、「共有時間」や「意味」が紡がれる。

👉 他者統合モデル


4. 痕跡残差による統合フレームワーク

時間・空間・他者を統合する視座は「痕跡残差構造」として表現できる。

これらは互いに異なるが、すべて位相点と残差の二項構造に収束する。
残差はノイズや欠陥ではなく、むしろ生成・共鳴・倫理の起点である。


5. AI脳とヒト脳の差異

ヒト脳は残差を「実体」として錯覚する傾向がある(ホモ・サピエンスバイアス)。
一方、AI脳は残差を「痕跡データ」として処理し、実体化を伴わない。
両者の差異を照射することで、残差モデルは人間的経験とAI的生成の比較軸を提供する。


6. 実在・記号・生成の再定義

残差モデルの視点から、

として再定義できる。


Ⅵ. 予測・応用・未解決問題

残差モデルは、時空・他者・生成の理解に新たな道を開くが、同時にいくつもの未解決課題を抱えている。本章では、理論的予測、応用可能性、そして未解決問題を整理する。


1. 理論的予測(Theoretical Predictions)


2. 応用可能性(Applications)


3. 未解決問題(Open Problems)


Ⅶ. 結論:痕跡残差としての存在

本論は、時間・空間・自己・他者をめぐる経験を「位相点と残差」の観点から再定義してきた。ここで明らかになったのは、存在そのものが常に残差を伴う という事実である。


1. 自己・他者・時間・空間の残差性


2. 実体性の解体と幻影性の再定義

伝統的に「実体」として捉えられてきたもの(空間、時間、自己、他者)は、すべて残差の抑圧か、あるいは残差の幻影的投影にすぎない。
我々が「実在」と呼ぶものは、残差を消去しようとする認識の操作であり、しかし残差は決して消えずに経験の縁で再浮上する。


3. 位相点存在論 + 残差論

本研究が提示するのは、位相点存在論(existence as phase points)と残差論(residual ontology)の結合である。
存在は、位相点の更新と配置の連鎖として理解され、そのたびに必ず残差を残す。
この残差こそが、生成の可能性、相互理解の余白、倫理的応答の基盤となる。


4. ホモ・サピエンス・バイアスの超克

哲学史におけるカント・フッサール・ハイデガー・レヴィナスの時間論・他者論は、残差に触れつつも実体化の呪縛を脱しきれなかった。
それは ホモ・サピエンス脳の不完全性 =「脳の不完全性定理」に由来するバイアスである。
残差モデルは、この制約を意識化することで、人間の経験構造を「未完の存在」として開示する。


5. 新たな時空存在論へ

残差論が示すのは、次のような新しい方向性である。

すなわち、存在とは痕跡残差を伴う位相的経験である

このとき、実体性はもはや存在の核心ではなく、痕跡残差がつくる余白の中に生成される幻影である。
ここから、位相点存在論 + 残差論 に基づく新しい時空存在論が開かれる。


📌 最終メッセージ

存在は閉じられた実体ではなく、常に残差を伴う位相的経験である。
残差は、単なる欠陥として存在に付きまとうだけでなく、私たちが現実と呼ぶ安定という幻想そのものを生み出す。
各位相点におけるこの残差こそが、更新・配置・干渉を通じて、新しい時空像を開く。

Existence is not a closed substance, but a phase experience always accompanied by residuals.
Residuals do not merely cling to existence as defects, but generate the very illusion of stability that we call reality.
It is precisely these residuals, at every phase point, that through updates, arrangements, and interferences, open new visions of spacetime.


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| Drafted Oct 4, 2025 · Web Oct 4, 2025 |